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親愛なるご主人さま
第22章 朝のテレビニュース

「あの・・・お取込み中、大変失礼いたします。細井様に会社から至急とのことで、お電話でございます」
「ミスター“X”か!?」
圭吾が訝った。
細井も驚きを隠せず電話を取ると"X”ではなく、細井の部下の男であった。
「ああ、なんだオマエか・・」
ホッとしたのもつかの間。
「あっ、細井さん、ボスが・・・"X"さんが・・いきり立ってあなたを探しています。すみません僕・・・あの人に脅されて・・・そちらの屋敷に向かったことをしゃべっちまいました」
「うっ・・まあいいさ、俺にはここに来なきゃならない大義名分がある。ボスは何時にそっちを出たんだ?」
「ほんの少し前です。すみません・・・」
「承知した」
「ボスが・・・ここへ向かっている」
細井が電話を切って三人に向かって言った。
「“X”がここに来る目的は細井さんを探しているんじゃない!菜穂子よ!Sさんが亡くなった今、自分が菜穂子のご主人様になって自分のモノしたいんだわ。昨日の彼の言動から十分に察せるの!」
玲子が目を赤く潤ませたまま、確信に満ちたよう言った。
「菜穂子を地下室に入れて匿ろう。我々には菜穂子を“ミスターX”に引き渡す義務はない。彼にその権限もない。契約は破棄され、全部終わったんだ!」
圭吾が言った。
「エージェント”X社”としては契約破棄です。菜穂子さんは自由の身になった。しかし、同時にそれは菜穂子さんを取り巻く“人々”が菜穂子さんにどう接するかも、自由というわけです。ボスも、我々も含めて」
細井の言ったその言葉に圭吾と玲子はハッとして顔を見合った。お互いの思いが言わなくても察し得たような気がしたからだ。
(菜穂子を奪うか・・・奪われるか・・・)
当の菜穂子は圭吾と玲子の様子など気に留めず窓の外を見つめながら言った。
「私は、自由!ここを出て行きます」
きっぱりと言い、細井が持ってきた私物が入っているキャリーバックを受け取った。

