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妹
第7章 十五夜(満月)

「……雅の名誉に関わることだから、会ってでないと話せないそうだ。時間を作ってくれたから、今から会って来る。東海林、車を回してくれ」
月哉は立ち上がり、医師に不在の間の事を頼んだ。
「加賀美君、雅がこんなことになってしまって申し訳ない――」
「……いえ……僕も雅の苦しみがここまでとは、気付いてあげられず……」
言葉に詰まった加賀美の肩を軽く叩くと、月哉は出ていった。
武田の病院に着き、受付に訪問のアポを取っていることを告げると、整形外科の医局長室に案内された。
「御挨拶するのは初めてですね、鴨志田さん」
武田は整った顔立ちで、どこかひょうひょうとした印象を与える男だった。
「お忙しいところお時間を取って頂いて、感謝します」
月哉は礼を言い、頭を下げる。
「雅ちゃん、意識不明のままですか?」
「はい。……失礼を承知でお聞きします。雅が服用した睡眠薬は、こちらで処方されたものでしょうか?」
月哉が言いづらそうに発した質問に、武田は気分を害した風でもなく淡々と答える。
「雅ちゃんは不眠を訴えた事はないので、睡眠薬は一度も処方していませんよ」
「……そうですか」
武田に席を勧められ、二人は腰を下ろす。
「睡眠薬は……ということは、他の薬を処方されていたのでしょうか?」
武田の言い方に引っかかった東海林が、口を挟む。
「雅ちゃんには半年前から、これを処方しています」
武田は白衣の胸ポケットから、キラキラと輝くクリスタルの細い棒を取り出した。
「それ……雅様のデスクの引き出しに入っていました。石かと思って、気に止めませんでしたが」
東海林は雅に人工呼吸をしている間、視界の端に入っていた異彩を放ったそれを覚えていた。
「これは、抗成長剤として処方していました――」
武田の骨ばった指先によりクリスタルの先端が割られ、中からさらさらと白い粉薬がリノリウムの床に落ちていく。
「……抗……成長剤?」
聞きなれない薬に、月哉が眉間に皺を寄せて問い返す。
「細胞分裂を抑え、身体が大人になることを止める事が可能です。雅ちゃんは半年前のパーティーで、私が子供しか愛せない性癖であることを偶然知り、私に近づきました……。そして、見返りを与える代わりに『大人になりたくないから薬を処方してほしい』と言ってきました」

