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妹
第7章 十五夜(満月)

数十分後、月哉が病院に到着すると、救命担当医と鴨志田の主治医が処置室から出てきた。
「み……雅はっ?」
月哉はあからさまに狼狽して担当医に取りすがる。
皆は医局長室に通された。
「社長、取りあえず出来る処置は全て行いました」
医師は険しい表情で続ける。
「後は、雅様が目を覚まされるのを待つしかありません……ただ……」
「……ただ?」
月哉がごくりと息を飲むのが分かる。
「……雅様はこのまま寝たきりの……植物人間の状態になる可能性が高いです」
「………………」
「睡眠薬を飲んでから発見まで時間が経っていた事、摂食障害になられていたこと――」
「何を言っているんだ……雅は只の夏バテだろう? 本人が言っていたんだ!」
医師の説明を遮り、月哉が声を荒げる。
「……社長……雅様は恐らく二週間以上、食事を採られていません」
東海林は、苦虫を噛み潰したような表情で呟く。
「……なんだって」
「雅様の胃の中には何一つ残っておりませんでしたし、腕には主治医が点滴した以外に針を刺された跡がありました……恐らく他に病院にかかられていたのではありませんか?」
医師は皆を見渡す。
「もしかしたら――」
今まで黙って聞いていた加賀美が、ぼそりと呟く。
「誰か心当たりがあるかい」
言い淀む加賀美を、月哉が促す。
「関係ないかもしれませんが……雅は医療法人 慈英会 武田病院・子息の武田先生と、交流があります」
「武田先生は確か、整形外科が御専門だったかと」
医師がインターネットを使って調べ始める。
「僕も二人が話しているところをパーティーで見かけただけですので、何とも言えませんが……」
「……私もお見受けしたことがあります」
自信の無さそうな加賀美の指摘に、東海林も同意する。
「後で雅様の私室を調べる必要がありますね……」
「取りあえず武田医師に電話してみます」
医師がネットで調べた電話番号に電話をかける。
暫く相手にこちらの状況を説明していたが、受話器を月哉に渡してきた。
「武田医師です、社長に直接お話があるようです」
「……はい……解りました、お伺いします」
通話を終えた月哉は、受話器を医師に返す。

