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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第7章 タモツ

置かれた品物をレジに通しながら、ふと顔を上げその様子を窺おうとした。視線が合い、またしても挑戦的な笑みを向けられる。
「今夜はね、晶のマンションにいるんだ」
「!」
「アハ、なにその顔。単に高校時代の友人が、お泊りしてるだけなんですけど」
軽口をききながらも、その眼差しは敵意がむきだしだ。そしてそれは、態度だけではなく言葉でも。
「晶と別れてくれない」
バーコードを読む手が、思わず止まった。
ぎょっとして見つめる僕の前で、カウンターに手を置きぐっと身体をこちらに近づけて、岸井さんは言った。
「わたし、さぁ。ちょっと困ったことになって、どうしても晶の支えが必要なの。晶は優しい子だから、そんな私を絶対に突き放せない。でもね。キミと別れることは、なかなか承知してくれないんだ。だからさ、キミの方から別れるって、そう言ってよ」
僕は一旦、その視線を避け、品物をレジ袋に入れた。
「……八百五十六円になります」
「……」
岸井さんは無言で、電子マネーのカードをかざす。
袋に入れた品物を手渡しながら、僕は言った。
「困ったことって、どういう事情ですか?」
「そんなの……キミには関係ないから」
岸井さんははじめて、少し言葉に詰まっている。
「では自分には関係ないことで、僕は美里さんと別れなければならないんですね」
「くっ……!」
彼女は笑顔を消すと、唇を噛んだ。不快そうに顔をそらし、自動ドアの外の暗い闇を見つめる。なにかに悩んでいるように感じた。

