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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第4章   岬? 


 幸せそうな二人の話を耳にしていた。

 わたしは呆然と、自分の平べったいお腹をさすった。

「……!」

 どうしてだろう?

 突然、涙がこぼれそうになって、わたしは焦った。

 後ろに座る幸せそうな二人の言葉が届くたびに、居た堪れなくなって、待合室から逃げ出したくなった。

 次から次へと溢れそうになる涙を、こぼれる前に必死に拭う。

 そうする内に、わたしは自分の涙の理由に気づくのだった。

 だって――今、触ったお腹――そこには、わたしの〝岬〟はいないのだと、そう実感していたから。

 後になって望もうとしたって、もう取り戻すことはできないのだ。

 うう……。

 わたしは声を出さずに、泣いた。鼻をすすることも、身体を震わすこともできずに。

 こんな憐れな姿を、決して後ろにいる幸せな二人に、悟られてはならないと――

 一心に、それだけを思って……。

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