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キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第3章  たもつ 


 その瞬間、僕はこの胸を熱くして、それだけで十分に満たされているのに、更に言葉を重ねようとする。

「じゃあ、僕のことが好き?」

 それに岬ちゃんが頷いてくれたら「僕も好きだ」と言おう。いや、たとえ頷かなくても言ってしまえばいい。

 そしたら、きっと。胸の中のモヤモヤを、すっきりと晴らせる気がしていた。

 だけど、そんな想いは他から投げかけられた一言に、吹き飛ばされることになる。

「ねえ。あそこにいるのって、――じゃない?」

 その声を、僕はなにげなく肩越しに聞いた。どうやら後ろの席に座る、若いカップルの会話の一端だったよう。

 この時点において、特にその言葉を気に留める必要なんて感じるわけもなかった。だからなんて言っていたのか、正しく聞き取れたわけでもない。

 でも僕の正面に座る、岬ちゃんにとっては違った――らしく。

「――!?」

 今の今まで僕だけを見つめていた視線が、突然として焦点を失ったように泳ぎはじめていた。やがて呆然とすると、色を失ったように宙だけを見つめる。

 繋いでいた手が震え始め、それが全身に広がっていった。

 そして――

「あ……ああ……」

 うめき声にも似た音を漏らしながら、すくっと立ち上がった岬ちゃんは、たぶん、その場から逃れようとしたのだろう。

 だけど刹那、彼女は僕の目の前で、まるで天井から釣っていた糸が切れた人形のように、力を失うと、床の上に倒れて落ちた――。

「みっ、岬ちゃん!」

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