この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
キズ×ナデ【Hな傷跡と仮初の愛撫】
第3章 たもつ

その瞬間、僕はこの胸を熱くして、それだけで十分に満たされているのに、更に言葉を重ねようとする。
「じゃあ、僕のことが好き?」
それに岬ちゃんが頷いてくれたら「僕も好きだ」と言おう。いや、たとえ頷かなくても言ってしまえばいい。
そしたら、きっと。胸の中のモヤモヤを、すっきりと晴らせる気がしていた。
だけど、そんな想いは他から投げかけられた一言に、吹き飛ばされることになる。
「ねえ。あそこにいるのって、――じゃない?」
その声を、僕はなにげなく肩越しに聞いた。どうやら後ろの席に座る、若いカップルの会話の一端だったよう。
この時点において、特にその言葉を気に留める必要なんて感じるわけもなかった。だからなんて言っていたのか、正しく聞き取れたわけでもない。
でも僕の正面に座る、岬ちゃんにとっては違った――らしく。
「――!?」
今の今まで僕だけを見つめていた視線が、突然として焦点を失ったように泳ぎはじめていた。やがて呆然とすると、色を失ったように宙だけを見つめる。
繋いでいた手が震え始め、それが全身に広がっていった。
そして――
「あ……ああ……」
うめき声にも似た音を漏らしながら、すくっと立ち上がった岬ちゃんは、たぶん、その場から逃れようとしたのだろう。
だけど刹那、彼女は僕の目の前で、まるで天井から釣っていた糸が切れた人形のように、力を失うと、床の上に倒れて落ちた――。
「みっ、岬ちゃん!」

