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最後の恋に花束を
第1章 四年ぶりの春
『 よっ、久し振り 』
日が暮れる頃の混雑する駅の片隅に、彼の姿はあった。学生の頃と変わらない表情。大きな瞳に、和かな笑顔。その表情にホッとする反面、私の心臓は少し高鳴っていた。
「 ごめんね、待たせた? 」
『 いや? そんな言う程でも? 』
そう言う彼の鼻先は少し赤く染まっていた。
3月の中旬といえど、まだ寒さは残っていて彼も私もマフラーを身に付けている。時計の針は午後6時ぴったりだった。
『 可奈、また背縮んだ? 』
「 はい? 縮んでないし… ハルくんが伸びたんじゃないの? 」
笑いながら私を小馬鹿にする彼。相変わらずで、学生の頃を思い出す。彼と私は、高校生の頃からの " 友人 " だった。当時も彼はよく私の事を小馬鹿にしては笑っていた。
『 店、予約してあるから早く行こーぜ 』
「 へぇ…珍しく用意周到だね! 」
『 可奈が行きたいっつったからだろ 』
斜め前を歩く彼の後ろを、追いかけるように歩く私。仕事終わりの彼はスーツ姿で、よく似合っていた。
『 ここ 』
そう言って一軒の店の前で立ち止まる彼。
指をさしたそこは、イタリアンバルだ。
「 お〜、なかなか…いい感じじゃないですか 」
お洒落な佇まいのそのお店の前には、手書きの看板が置かれており " 当店一番人気 は鶏肉とキノコのアヒージョ! " と可愛らしい文字で書いてある。それを指差しながら彼は口を開いた。
『 これがうまいのよ!入ろうぜ 』
嬉しそうに笑う彼は、私の記憶の中の彼と何も変わっていない。私と彼が会うのは4年ぶりだった。

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