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第53章 落日

「...フンっ、何をうろたえておる。今更、未通女(おぼこ)でもあるまいに...」

ニヤり、と薄ら笑いを浮かべて、大川がそう言い放つ。

「...しゃ、社長っ...！私っ...こんなこととは聞いてませんっ！失礼ですが、帰らせて頂きますっ...」

亜美はそう言って振り返り、来た道を戻ろうとする。

しかしーー。

「はいー、ストップストップ。こんな夜道を女性が独りで歩くなんて危ないですよ？」

「き、木下さんっ！？きゃっ...」

木下は亜美の手首を掴み、行く手を阻もうとする。

「ちょ、ちょっとっ...離してっ...！」

亜美は必死に抵抗するも、力では到底適わない。

(これは...どういうことなのっ！？もしかしてっ...)


「...あんま大きい声出さないで下さいよ。僕、せっかく楽しみにしてたんですから...。市川さん...というよりは、『高崎亜美』さん、の方が僕的にはしっくり来るんですけどね...」

「なっ...！？」

何故、その名前をーー。

亜美は思わず、大川を睨みつけた。

「...なんだ？まぁ、そんな怖い顔をするな。儂は仮にもお前の上司だぞ？もちろん、その覚悟があって儂の下で働くつもりだったんだろう？」

「...で、でもっ...こんな風に、他の人を巻き込むだなんてっ...それに、私の昔の名前までっ...！」

「ふむ。まぁ、細かいことを言うでない。ここにおる皆、昔の名前を出したらお前のことを知っておったぞ？ちょっとした有名人じゃあないか。上司として鼻が高いぞ。ガハハ！...大丈夫だ。お前との『約束』は、ちゃ～んと守ってやる。それなら問題なかろう？もちろん、皆にも了承済みだ」

「そ、そんなっ.....」

亜美はあらためて周囲の男達を見渡す。

それは先程までとは一変し、皆ケダモノの形相へと変化していた。

「あっ.....あぁっ.....」

亜美は全身の力が抜けて行く。

自身に向けられる、舐め回すような視線に犯されるのを感じながら。


「...どうだ？思い出したか？本当の自分というものを...」

大川のその言葉を最後に、亜美は一切の抵抗をやめたのだった。