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セイドレイ【完結】
第53章 落日

亜美はこの時になってやっと、就業初日から感じていたスタッフ達のよそよそしさの理由が分かった気がした。
現場スタッフの大半が、この安藤をはじめとする女性で固められている。
亜美と同じように、子育てをしながら働いているスタッフも多いため、そのことは亜美にとって心強くもあったのだが...実際のところは想像していたものと少し違っていた。
(やっぱり現実は...そんなに甘くは無いってことなのかな...)
現実。
その厳しさは、他ならぬ亜美が身を持って知っているはずだった。
しかし、ひとたび社会へ出れば、亜美があの事件の被害者『少女A』であることを誰も知らない。
健一や慎二と暮らしを共にし、図らずも大川が社長を務める会社へ就職した。
それは皆、あの事件に関わった者達だ。
今は良き理解者として亜美の心の支えとなっている楓に関しても、やはりあの事件をきっかけに生まれた関係性である。
だがここから先は、加害者も被害者も無い。
市川亜美という、どこにでも居る一人の成人女性なのだ。
そんな社会の洗礼が、早速亜美に襲い掛かった瞬間だった。
「...ま、今日は他の事業所のお偉いさん達も来るみたい。こんなの珍しいことなのよ~?だから、いっぱい媚び売っとくと良いことあるかもしれないわよ?この業界、狭い世界だから。噂なんてすーぐ広まっちゃうんだから。くれぐれも『間違い』を犯さないように気をつけてね!」
「間違い、って.....」
「あらやだ、ひょっとして心当たりがあるのかしら~?なーんてね。ふふっ。いいじゃない?社長に気に入られてるんだもの。羨ましいわ~。でも、職場の空気を乱すようなことだけは気をつけてもらわないと。うちはギリギリの人員でやってるんですからね」
亜美は、安藤がわざわざ送迎を申し出たのは、親切心などでは無いことを思い知る。
恐らく、2人だけの時に釘を刺したかったのであろう。
それは、同性による明らかなまでの『拒絶』、だった。
亜美は胃が痛くなる感覚に襲われながら、今後のことを思うと暗澹たる気持ちを抱かずには居られなかった。
本来ならば喜ばしいはずの歓迎会が、一瞬にしてどんよりとする。
それは、この飲み会の席に大川が同席することなど霞んでしまう程に、亜美にとっては気が重いものになってしまったのだった。
現場スタッフの大半が、この安藤をはじめとする女性で固められている。
亜美と同じように、子育てをしながら働いているスタッフも多いため、そのことは亜美にとって心強くもあったのだが...実際のところは想像していたものと少し違っていた。
(やっぱり現実は...そんなに甘くは無いってことなのかな...)
現実。
その厳しさは、他ならぬ亜美が身を持って知っているはずだった。
しかし、ひとたび社会へ出れば、亜美があの事件の被害者『少女A』であることを誰も知らない。
健一や慎二と暮らしを共にし、図らずも大川が社長を務める会社へ就職した。
それは皆、あの事件に関わった者達だ。
今は良き理解者として亜美の心の支えとなっている楓に関しても、やはりあの事件をきっかけに生まれた関係性である。
だがここから先は、加害者も被害者も無い。
市川亜美という、どこにでも居る一人の成人女性なのだ。
そんな社会の洗礼が、早速亜美に襲い掛かった瞬間だった。
「...ま、今日は他の事業所のお偉いさん達も来るみたい。こんなの珍しいことなのよ~?だから、いっぱい媚び売っとくと良いことあるかもしれないわよ?この業界、狭い世界だから。噂なんてすーぐ広まっちゃうんだから。くれぐれも『間違い』を犯さないように気をつけてね!」
「間違い、って.....」
「あらやだ、ひょっとして心当たりがあるのかしら~?なーんてね。ふふっ。いいじゃない?社長に気に入られてるんだもの。羨ましいわ~。でも、職場の空気を乱すようなことだけは気をつけてもらわないと。うちはギリギリの人員でやってるんですからね」
亜美は、安藤がわざわざ送迎を申し出たのは、親切心などでは無いことを思い知る。
恐らく、2人だけの時に釘を刺したかったのであろう。
それは、同性による明らかなまでの『拒絶』、だった。
亜美は胃が痛くなる感覚に襲われながら、今後のことを思うと暗澹たる気持ちを抱かずには居られなかった。
本来ならば喜ばしいはずの歓迎会が、一瞬にしてどんよりとする。
それは、この飲み会の席に大川が同席することなど霞んでしまう程に、亜美にとっては気が重いものになってしまったのだった。

