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セイドレイ【完結】
第25章 暗転

むせび泣く亜美を、貴之は無言で抱き寄せ、その頭を撫でた。
亜美は貴之の腕の中で、ただ泣きじゃくることしかできなかった──。
しばらくして、亜美が少し落ち着きを取り戻す。
お互いに、聞きたいこと、言いたいことは山のようにあった。
しかし、なにからどう話していいのか分からないまま、時間だけが過ぎていく。
先に切り出したのは、亜美だった。
「──ごめんね。私のこと、軽蔑したよね…?」
「そ、そんな…こと…ないよ…」
「水野くん…もう私と関わっちゃダメ。ぜんぶ私のせいで…」
「俺のことなんかいいんだよ。それより…なにがあったのかは知んないけど、まさかあんなこと…自分から望んでやってるわけじゃないだろ?大体、あの男は亜美の身内じゃんか…。だから理由があるんだろ?脅されてる、とかさ…」
「──ごめん。今ここで全部を話す時間はないの。それに…もうこれ以上、水野くんを巻き込むわけにはいかない。ここまで巻き込んでおいて勝手だけど、でも本当にもうこれ以上は…」
「時間がないって──まさか亜美、あいつらのところに戻るつもりか?嫌なんだろ?脅されてんだろ?だったら、これから一緒に警察に──」
「──ダメなの。気持ちはすごくうれしいけど…それはできない。私は…あの家から出ることはできない…だから…帰って」
「そ、そんなっ…俺はただっ──」
「私、妊娠してないよ。だから水野くんはなに悪くない。なのに、ぜんぶ水野くんのせいになっちゃって…本当にごめんなさい。私と家族になりたいって言ってくれて…本当に本当にうれしかった」
「なら…それならさ、家族になればいいじゃん…?お互い同じ気持ちなのにあきらめなきゃいけないって、そんなのおかしいだろ!?俺が亜美を守るから!絶対に絶対に守るから──」
「──もうじゅうぶん、守ってもらったよ?だから…今度は私が…水野くんを守りたいの」
「亜美…?」
「私なら…大丈夫。水野くんが幸せになってくれればそれで…。でも、その相手は私じゃない」
「いっ、嫌だっ!!俺は亜美と幸せになりたいんだよ!!」
「────ねぇ、水野くん…記憶力はいいほう?」
「え…??どうした急に…う~ん、あんまり自信はないけど…」
「…そっか。じゃあ、今から私が言うこと、絶対に忘れないで。あのね──────」

