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セイドレイ【完結】
第24章 性夜の鐘

「両親がどんな気持ちだったかは今でも分かりません。そして私は、自分が一体どういう存在なのか、心にぽっかり穴が空いたようになってしまった。その穴を埋めてくれるのは──お父様しかいないと、理屈じゃなく感覚でそう思ったんです」
「ワシに…か?」
「はい。私、変なこと言ってますよね。でも、私はこの家で生きていく。そして、前にも言いましたけど──いつかはお父様の子を産んで、育てたい。そう思いました」
「…どうしてそこにこだわる。ワシはお前の人生を滅茶苦茶にした男だ。一時の気の迷いか知らんが、そんなことをお前が本心から望んでいるわけがなかろう。本当はなにを考えている?ワシは騙されんぞ」
「…信じてもらえないんですね。私としては…健一さんや慎二さんでも構いません。どんな理由があれ、独りぼっちの私に "家族" と呼べる存在は、もうあなたたちしかいない。そして私も、家族がほしい。子どもがほしいんです。私たち、血縁上は入籍することができるんですよね?今は養子縁組されてるわけでもないですし。それなら私、いずれは健一さんか慎二さんと籍を入れても…いいと思ってます」
「お、おいっ、ちょっと待て──」
亜美の、そのあまりに飛躍した主張に動揺する雅彦。
冷静そうに見えるのはその口ぶりだけで、すでに亜美の精神は崩壊してしまっているのではないかとすら思えてしまう。
「かたちはどうあれ、私はこの家の家族になります。もう決めました。どこへも行きません。だけど、そのためには…──」
「──新堂…か?」
亜美は押し黙ったあと、ゆっくりと無言でうなづく。
「今すぐに、というのは難しいことも分かっています。でも、あの男…新堂の思いどおりになることだけは、どうしても嫌なんです」
亜美は今たしかに、「新堂」と呼び捨てにした。
こんなことは未だかつて、誰に対してもなかったことである。
「フンッ…。近ごろお前には見透かされてばかりだな。はっきりと言えばいい。あいつが邪魔なんだろう?まぁ、あいつはワシのことを邪魔に思っているみたいだが」
「ええ。新堂がいる以上、またいつか関係ない人を巻き込む。私、それだけは絶対に…許せない」
「…分かった。実はお前に…もうひとつ話しておくことがある。むしろ今日の本題はそっちだ──」

