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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実

「ありがとうございます、広瀬課長」
巽がそう頭を下げるところを見ると、我が〝溺恋〟は、翌る日には全く別の〝溺愛〟へと豹変してしまったらしい。
大体、変更するならするで、怜二さんに言う前に、企画のパートナーになにかひと言あってもいいと思うけれど。
それとも〝溺恋〟の保険や、姉妹バージョンとして作る気なのだろうか。
怜二さんは考え込むわたしに、いつものふわりとした笑みを見せて、わたしの頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「凄い企画を練ったじゃないか。きみにそんな力があったとは」
「あ、ありがとうございます」
巽が内容を少し変えてしまって、最早わたしの案ではないけれど、威圧的に話を合わせろと強要する巽の目が怖くて、ぎこちなく怜二さんに答えた。
怜二さんはとても溌剌とした生気に満ちている。
それはどうしてなのかなど、恐ろしくて考えたくない。
……昨夜は怜二さんと電話なりLINEなりで、連絡をとらなかった。
そういえば、由奈さんを送った夜には怜二さんからの連絡がなかったような気がしたが、実際の記憶は曖昧で。巽に浮気の可能性を示唆されても、怜二さんのことではなく、巽のことばかり考えてしまう自分がいることを、無性に悲しく思えた。
「広瀬さん。あなたの企画も楽しみにしています」
巽がにっこりと笑って、怜二さんに言った。
「はは、頑張ります」
「ええ。営業から畑違いの企画へ移り、若くして課長にまでなったその能力を生かして下さい。それと、山本さんには別途僕の方で企画を提出するように言っています」
「そうですか。わかりました」
「いつの間に、そんなことを……」
思わずわたしがぼやくと、飲み会の時だと巽が教えてくれる。
……無礼講の場なのに、ただ教えられるだけではすませない鬼畜専務め。

