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アムネシアは蜜愛に花開く
第3章 Ⅱ 誘惑は根性の先に待ち受ける

「わたしと巽は、姉と弟なんだよ!?」
「それは昔の話だろう。昔だろうが今だろうが、良い子になるなよ、アズ。姉と弟なんて捨てて、ただの女になればいいじゃないか。俺に……〝溺恋〟しろよ」

――たとえ相手に恋人があろうとも、奪ってしまうような……激しく燃えさかるような恋情の終焉。

「お前は俺を欲情させたんだ。だったら……責任取って、俺に溺れろよ!」
「出来ない」
「アズっ!!」
「わたしは……怜二さんが好きなの」

 わたしは嘘をつく。

「結婚するの」

 巽を突き放す嘘を。

 結局わたしはどこにいても、嘘ばかりしかつかない女だ。
 嘘、嘘、嘘。
 嘘で塗りたくったわたしは、なにが本当なのかもわからなくなっている。
 
「俺に濡らしておいて、信じねぇよ、そんなもん」

 巽が睨み付ける。
 昔のように、わたしに嫌悪を抱いたような憎々しげな眼差しで。

「確かに、わたしと巽は姉と弟じゃないんだから、もうわたしとあなたはなんの繋がりもない。だからお互い、昔のことなんか忘れて、お互いの恋人と幸せになりましょう。浮気しているかもなんていう妄想は捨てて」
「アズ!!」

 巽は翳った顔で怒鳴った。

「悩み相談、ありがとうございました、専務」

 わたしはスカートの下にはなにもはいていない格好だけれど、ベッドの上で正座をして頭を下げる。
 
「きっともうわたしは、怜二さんにも濡れると思いますので、彼に抱いて貰います」

 笑え、笑え。
 彼に抱かれたいと思う本心を顔に出すな。

「信じないと、言っているだろう、俺は!!」
「由奈さんを大事にして下さい」

 笑え、笑え。
 彼女から奪いたいと思っている、わたしを気づかせるな。

「杏咲!!」

「アムネシアは散りました」
「なにを……」
「枯れた花は元に戻りません」

 巽は傷ついた顔をして、唇を引き結んだ。
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