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アムネシアは蜜愛に花開く
第2章 Ⅰ 突然の再会は婚約者連れで

 巽はたっぷりと沈黙してから、舌打ちをして顔を横に背ける。

「いらねぇよ、お前の辞表なんか。……座れよ」
「……」
「まだ仕事の話をしてねぇだろ、座れ! 同じことを二度言わせるな!!」

 まるで駄々っ子みたいだね。
 でも仕事の話を出されたら、わたしは上司に従うしかない。
 彼はそれを逆手にとったのだろう。

「それと専務。その物言いなんとかなりませんか。ここはプライベートではありません。アムネシアの専務らしく振る舞って下さい」

 さらにわたしは線を引く。
 巽はどう出るのか。

「わかりました藤城さん。失礼をお詫びします」

 ……彼はわたしに従った。専務の顔で。

 内心心臓がバクバクしていたわたしとしては、少しほっと胸を撫で下ろした。
 やはり昔のことを持ち出されると、平静ではいられなくなるからだ。

「あなたがアムネシア以上にルミナスの社員達を大切に思うのなら、あなたがそれを行動で示して下さい。ルミナスの社員の頑張りは、アムネシアに必要なものだと思えるように」

 巽は甘く穏やかに微笑む。
 先ほどの悪態のような粗野さは、どこに隠れてしまったのだろう。
 夢を見ていたような気分になり、戸惑ってしまう。

「はい、わかりました」
「それにより、ルミナス社員の待遇を考えたいと思います」
「……はい」

 わたしは膝に置いた手を拳にして、ぎゅっと握りしめた。
 わたしにルミナス社員の命運がかかる線は、崩さないつもりらしい。
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