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仮初めの恋人
第2章 私のフィアンセ~摂津凪子の依頼~
特急電車に乗り、駅を遠く離れてから、幸二朗はネクタイをシュッと引っ張って緩める。

「ありがとうございました」
「いえいえ。凪子さんこそ、お疲れ様」

幸二朗の口調は先ほどまでとは一変し、最初にあった頃の見知らぬ男の感じに戻っていた。

「これで今回の依頼は終了だね」
「……はい」
「随分浮かない感じだけど?」
「多分……母にはバレていたと思うんです」

二人きりになった時の母の言葉がまだ耳に残っている。

『花嫁姿姿見せたいとか考えて無理に焦っちゃ駄目だからね』

母はやっぱり、騙せなかった。
でもそれが少しだけ、嬉しくもあった。

まさか金で雇った『仮初めの恋人』をフィアンセと偽って紹介しているとまでは分かっていないだろうが、少なくとも結婚を間近に控えた婚約者ではないことくらいは見通されていただろう。
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