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Quattro stagioni
第6章 スタンダールの幸福 Ⅰ

会社近くの居酒屋に移動して、生ビールで乾杯。1年前の今頃は、仕事終わりの酒はいつも都筑と一緒だった。煙草を吸おうとして、そう言えば村澤さんの前ではあまり吸っていなかったのだと思い出し、箱を鞄の底に押し込んだ。
「お前なぁ、いい奴なんだけどな、なんつーか不器用すぎるよな」
豪快にジョッキを煽り、枝豆をつまみながら村澤さんが呟く。早々に酔っているのか。殆ど独り言も同然だった。
「別に、俺は不器用なつもりないっすよ」
「…言いたかねえけど、藤と比べて自分は器用だと思うか?」
「………奴はまあ要領良いっすよね」
今更、比べたところでなにになる。喉に乱暴に流し込んだビールはまだよく冷えていたが、なんだか喉にまとわりつくような感じがして、美味さは半減していた。
「つーか、いいんすよ、俺はあいつが笑っててくれたら」
「それ、それだよ。それが良くない。お前そうやって自分丸め込もうとしてるだろ。そんなんだからうだうだ引きずるんだよ」
「………」
鋭利な言葉がぐさりと胸に突き刺さる。言いたい放題言いやがって。俺だって知ってるぞ、あんたらが都筑がどちらを選ぶかで賭けをしていたことも、藤に賭けた部長が独り勝ちしたことも知っている。進めずにいる俺にあれこれ言ってくるのが親切心なのか、それとも賭けに負けた当てつけなのか、最早よく分からない。
「はー、まじで、なんであんな変な女好きになったんすかね」
「お、いいぞ。もっと吐き出せ」
「大体あいつ、香川だの平井だのはさっさと蹴散らすくらい鋭かったくせに俺の気持ち全然気づかねえし、藤のことだって、彼は本気じゃないんだよとか言ってたかと思えばいつ間にかほだされやがって」
酔いが回ったわけではないのに言葉がするすると溢れ出してくる。ずっと、誰にも言えなかったことだ。くそ、と吐き出すと村澤さんの手に背中をばしばしと叩かれた。

