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Quattro stagioni
第6章 スタンダールの幸福 Ⅰ

俺が口を閉ざしたのが気になったのか、都筑は奇妙な表情を浮かべた。仕事しろよ、と言葉をやって森の書いた文字へと目を落とす。

1時間ほど経って、都筑は仕事を切り上げて帰っていった。その後姿が完全にフロアから消えると離れたデスクの村澤さんが鞄片手にこちらへと近寄ってくる。

「飲みでも行くか」
「……すいません、もう少し仕事片付けて帰ります」
「なあ、お前さ、仕事に逃げんなよ。女は都筑だけじゃないぞ。あれよりいい女幾らでも居るだろ」
「はは、まあ、そうっすね」

確かに、都筑志保が特別いい女かというとそう言うわけではなかった。すらりと背が高く、黙っていれば美人な部類に入るかも知れないが、あいつはとにかく他人の感情に鈍感で、懐に入れた人間以外には冷たい女だ。

俺は、自分が彼女のテリトリーに入っていることに胡坐をかいていた。突然現れた藤は強引にその中に入って、俺の知らぬ間に居場所を作り上げた。

そもそも藤のことは奴が入社してきた頃から気に入らなかった。まるで太陽のような明るさも、素直さも、眩しすぎて鬱陶しかったのだ。それに、あいつが都筑を見る視線がなにより気に食わなかった。真っ直ぐ、迷いなく、都筑を見つめる視線。作り上げた外面に罅を入れるその目つきはいつだって俺の背筋を冷たくした。

「合コンでもやるか?」
「…まじで、そういうのいいっすよ。それに村澤さんがそんなのしたら森が怒るんじゃないんすか」
「あいつの友達に声かけて貰って、あいつも一緒に行けば問題ないだろ」

そういうものなのか?はあ、と曖昧な返事をやってPCをシャットダウンする。仕事をもう少し片付けるつもりだったが、そんな気はなくなってしまった。

「……やっぱ、1杯だけ付き合ってもらっていいすか」
「おう。あ、部長に連絡するか?あの人もどっかで飲んでるだろ」
「地獄の部長会を自ら開催したくないっすね」
「そうだな。じゃあ、近くで軽く飲んで帰るか」
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