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月光の誘惑《番外編》
第3章 月に臨み、月を望む。

 二つ目のおにぎりに手を伸ばそうとして、あかりがじっと俺を見つめているのに気づく。
 感想も感謝の言葉も言っていなかったな、俺。バカだなぁ。

「ごめん。めちゃくちゃお腹が空いてて。美味しいよ。ありがとう」
「どういたしまして」

 ベッドに腰掛けて笑う天使。

「でも、先生。初対面の人からもらったものの中に毒が入っていたらどうするの」

 お茶を吹き出しそうになって、むせる。

「ちょ、ど、毒、入ってるの?」
「入ってるわけないじゃん」
「……だよね」

 やっぱり悪魔なのかもしれない。意地悪そうな笑みを浮かべてあかりは俺を見つめる。

「湯川先生は、私を信用しすぎ」
「ダメかな?」
「ううん、いいよ。セフレって関係は、信用の上に成り立つから」

 セフレ。
 改めてそう言われると、そうか。セックスだけの関係は――セックスフレンド、か。恋人ではない。当たり前か。
 少し、胸が痛む。
 けれども、あかりがそれを望むのだから、応じるしかない。その道しかない。

「美味しかったよ。ごちそうさま」

 くしゃりとアルミホイルを握り潰して、少し遠いところにあったゴミ箱に入れに行く。
 そして、シャワーでも浴びようかと振り向いた瞬間に――軽い衝撃があった。

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