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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice

「お前さ、百面相してねぇで、食えよ。冷めるだろう?」
須王がテーブルに肘をついて顔を乗せながら、極上の微笑みであたしを促す。
心臓に悪いこの甘々な彼を意識しながら、本場仕込みだというジャーマンポテトを、口に入れてみる。
もぐもぐもぐ。
モグモグ、ただいまお食事中。
「どうだ?」
痺れを切らしたように、須王が訊いてくる。
「美味しい!! 滅茶苦茶美味しい!!」
「口に合うか?」
「合いすぎ! とっても美味しすぎて、ほっぺた落ちちゃう!」
あたしの顔がぱあっと明るくなると、早瀬は喜んで、自分の口にも優雅にフォークを運んだ。
次に付け野菜のキャベツを食べてみる。
「ん~!! これも美味しいね。なに、この絶妙な味は! このキャベツ、どうしたらこんな味になるの!?」
甘みと苦みと酸味が同在しているキャベツも、凄く美味しい。
「即席で作ったから、家にあったキャラウェイシードと、コンビニにあった安いビネガーで酸味を出している。本場はもっと酸っぱい」
「キャ、キャラ?」
「キャラウェイシード」
初めて聞く名前だった。
「カレーとか、カクテルのカンパリ、あるだろ? あの中にも入っている、消化を促進させるハーブだ。キャラウェイは和名が姫茴香(ひめういきょう)といい、その種子がキャラウェイシードだ。クミンによく似ている」
クミンとは、カレー粉の原料と言われているもの。
残念ながら、あたしはその現物を見たことが無かった。
どれだけハーブら調味料に、興味がなかったんだろう。
あたしが作れば、ただのサラダや炒めものばかりになってしまう千切りキャベツを、美味しく食べれる別の方法があるのなら、あたしもハーブを勉強してみてもいい。

