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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice

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「キャベツがコンビニの千切りキャベツで、パンがコンビニのベーグルで悪いけれど……」
須王の料理をハラハラして見守っていたはずが、テーブルの上に置かれた料理に唖然としている。
ほかほかと湯気をたてている、ジャガイモとベーコン。粗挽きこしょうとパセリが振りかけられている。
お皿に添えられたのは、しんなりとしているキャベツ。
「即席で悪いが、これはまあ、簡単なジャーマンポテトだ。で、そのキャベツがザワークラウト(塩漬けキャベツ)の代わり」
「………」
「あ、見た目で、もう駄目か?」
彼は苦笑する。
「そうじゃなくて。なんでそのカタカナの名前の料理が、ぽんと作れるのかなって。凄く手際よかったし。料理したことあるんじゃない」
「ああ。ドイツにいた時に、ただ飯も食えねぇからちょっと厨房の手伝いをしたんだ。まあさせられたというのが正しいけど」
なんと! 王様自ら調理をしたと!?
「そんなんで、その時に作った賄い程度の簡単なドイツ料理なら作れる。ただ日本に帰ってきて一切作っていなかったから、味に自信はねぇけど」
「棗くんは?」
「あいつは、料理好きなんだ。ここに泊まる時は、マイ鍋セットを持参してくるほど。だから好き勝手にやらせている」
「そ、そう……」
女子力が高い棗くんは、まるで須王公認の嫁だ。
棗くん、あたしと女帝が作った料理を美味しいと言って食べてくれるけれど、須王がこの家で棗くんの調理を止めないということは、棗くんの料理はとても美味しいんじゃ?
むむ。
ちょっと棗くんに対抗心。
須王との付き合いの年月は全く敵わないけれど、男の娘に負けるわけにはいかない。これだったら亜貴に会わせる顔がないじゃないか。

