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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice

「もうひとり、タツキというは、俺達全員に無関心でさっさといなくなった。俺もシュウも見捨てて、先に出ていきやがった。出ただけで義理は果たしたと言わんばかりの、馬鹿にしたような眼差しで。ある意味、ワタルよりタツキの方が、横暴の奴らの冷酷な血を強く引いている」
「……っ」
「ワタルは倒れたシュウだけを助けて、何年もアメリカに行った。そして帰国したら、身内ぶって連絡してくる。それが善意ならまだいい。少しは、どうだとか聞いてくるのなら、それなりに俺も接する態度があった。嫌いには変わらなくても。……だけど勝手に、あいつの事情を押しつけて、俺を道具のように利用しようと持ちかけてきた。今まで放置だったくせに」
「………」
「俺の人権なんてありゃしねぇ。どうせならと、お前を探して貰ったんだ。あいつの条件に乗るフリをして。あいつには、それだけの力があるから」
彼は自嘲気味に笑いながら、フライパンの具を皿に入れた。
「……そうしたら、探してやったんだから、約束を果たせだの言ってくる。タチの悪ぃ、借金取りのようなもんだ」
「約束って?」
「……いいんだよ、お前には気にしなくて」
「でも……、あたし、無関係では……」
「無関係さ。俺がお前への想いを止めることが出来ずに、あいつを利用しただけ。ギブアンドテイクなんだから」
スマホはまた震え始めた。
……電話って、結構かけたいという気持ちが強くなければ、長く何回も電話ってかけないよ。
「渉さんやシュウさんは、須王のどんな身内なの? 兄弟?」
「俺は、生まれつき兄弟なんていねぇよ。身内だなんだの好き勝手に言っているが、俺は認めてねぇ。他人より遠い存在だ」
どこかぶっきらぼうに彼は言った。
「だったら、苦楽を共にした棗の方が、よほど身内だ」
「………」
渉さん……、須王とどんな関係の身内なのかわからないけれど、本当に酷いひとなのかな。
どんなひとかはわからないけれど、須王を助けられないような、事情があったとかは、考えられないのかしら。

