この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice

「こいつは出なくていい。電源切ると留守電にいれてくるから、声も聞きたくねぇ。途中で切るのは、出たくねぇという意思表示。後は放置しとけ」
「でも、かなりずっと長く鳴ってたよ? 今回は緊急事態じゃ……」
「あいつがなんとかすればいい。俺が話に乗る義理はねぇ」
彼は茹で上がったジャガイモの皮を剥いていた。
よかった、後で皮剥くつもりだったのか。
切られたスマホは、再びブルブルと震え始めた。
しかし、須王は一切無視。
「ねぇ、きっと緊急だよ。出てあげた方が……」
「俺の緊急だったら俺がなんとかするだけの話。あいつの緊急なら俺は知らん。暇人だから、いつも長くかけてくるんだ。あいつの趣味だから、気にするな」
いやいやいや!
「気にするなって……。そのひと、棗くんが言ってた〝ワタル〟さんだよね?」
するすると皮を剥く須王。
自炊しないくせに、包丁の使い方、手慣れているじゃないか。
……まさか銃だけではなく、刃物も得意だから、とか?
「そんなに嫌いなの、そのひと。シュウさんというひともだったよね?」
「忘れろ忘れろ。なんかお前の口からそいつらの名前が出てくると、無性に腹立たしくなる」
美しい顔が歪んでいる。
「本当に嫌いなんだね。なんでそんなに嫌いなの?」
しばしの沈黙の後、須王は尋ねてくる。
「……教えて欲しい?」
「え?」
「俺が、ワタルとシュウをなんで嫌いなのか」
「……教えてくれるのなら」
フライパンにみじん切りにしてあるにんにくと、オリーブオイルを入れて熱し、火を調節しながら、なんでもないというように振り返らずに彼は言った。
「俺の過去の話したろ? 俺が組織から抜けたくて助けて欲しいと泣きついた話」
「うん。お身内だったよね?」
「……ああ。ワタルと俺とシュウともうひとりが、横暴な奴らに呼ばれたってわけ。横暴な奴らと俺達と、中立を保とうとしていたのがワタル。自作自演で気を引いたのがシュウだ」
火のついたフライパンにジャガイモとベーコンが入れられ、彼は塩こしょうをして混ぜながら言った。……怒りを帯びた声で。

