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サキュバスちゃんの純情《長編》
第11章 幸福な降伏

「荒木雄一は俺のはとこ。まさかあかりの会社にいるとは思わなかった……俺としたことが。勤めている会社の名前に気づかなかったなんて」
翔吾くんは部屋の窓際のソファに座って、長々と溜め息を吐き出した。何度目の溜め息だろう。
湯川先生はネクタイを緩めて抜いたあと、二人のジャケットとネクタイをハンガーにかける。翔吾くんはネクタイをソファにかける。
部屋はツイン。だけど、ソファが簡易ベッドになるらしい。三人が泊まれる部屋のようだ。
とりあえず、私はパンプスを脱いでベッドに腰掛ける。
湯川先生は缶ビールを翔吾くんに渡し、二人して無言で乾杯したあとグイとそれを飲んだ。
……昼間から飲まないのではありませんでした、お二人さん?
「雄兄(ゆうにい)かー……よりによって雄兄かよ……最悪だ」
最悪。
健吾くんとのことがあっても、そんな言葉は口にしなかった翔吾くんがそこまで言うのだ。本当に最悪なんだろう。
ただ、ご両親が別荘に現れたときにも言っていたから、単なる口癖なのかもしれないけど。
「雄兄、俺とあかりのこと知ってるだろ?」
「うん、バレてる。軽井沢から戻るときの新幹線が同じだったみたい」
「あー……そうか、金沢からの帰りか。しまったなぁ」
湯川先生は、翔吾くんと私の会話を壁にもたれてビールを飲みながら聞いている。「軽井沢?」「金沢?」と少し疑問に思う点もあるようだけど、口は挟まない。
翔吾くんが混乱している、とわかっているみたいだ。
「望さん、相手はものすごく手強いんだ」
「……そんなに?」
「俺とあかりが付き合ってることも、健吾と関係があることも、たぶん知ってる。それでも引かずにあかりを口説いてくるような男だからね。手強いよ」
ついでに、ケントくんとのこともバレています。他にも男がいると疑っています。ものすごく手強いです。

