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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

「しょ、翔吾く」
「ま、遅かれ早かれ言うつもりだったし。さっきそういう話、してたでしょ。何、驚いてんの」
勝ち誇ったような横顔に腹が立つ。
息子の言葉に、俄然身を乗り出してきたのは、お父様のほうだ。
「あ、結婚するの? そういう予定?」
「そういう予定」
「いつにする? 学生結婚か?」
「いや、ちゃんと就職してから」
「何年もお待たせするのは失礼だから、期限は決めておけよ」
……あれ、反対、していない?
翔吾くんは「会社の利益になるような女性との結婚しか許されていない」ので、私とセフレ関係を続けていたのではなかったか? 都合がいいから、と。
やっぱり、健吾くんが言っていたことが正しいのかな? 「親の会社を継がなければならない、親の決めた人と結婚しなければならない、自分の人生には……自由がない」と考えているのは、すべては翔吾くんの思い込みだと。
「……反対しないの?」
翔吾くんも驚いたようだ。目を丸くしている。ご両親は顔を見合わせたあとで、「しないわよ」「するわけがない」と二人して頷く。
「だって、昔から『有益な女性と結婚しろ』って、言っていたじゃないか。会社を大きくするために、俺、どっかの令嬢とやらと結婚しないといけないんじゃなかった?」
「翔吾、お前、『有益』が会社の利益だと思っていたのか?」
「え、違うの?」
「違うわよ。会社のことなんてどうでもいいわよ。翔吾が幸せになるのが私たちの『有益』なことだもの」
……なるほど、そういう誤解だったわけか。
翔吾くんが誤解するのも頷けるような言葉ではある。会社経営者から「有益な」という言葉が出たら、真っ先に利益のことだと思うだろう。経営者の息子なのだから、それが普通の反応のように思える。
ご両親とも、説明を省きすぎです。
翔吾くんは「嘘だろ」「マジか」「俺の青春が」とぶつぶつ呟いていたけれど、何とか自分で落としどころを見つけたみたいだ。満面の笑みを浮かべている。
君はもう少し人の話を聞いたほうがいいと思うよ。

