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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

「先程もご挨拶いたしましたが、月野あかりです。二十五歳で、派遣社員をしています」
「あら、歳上なのね。あかりちゃんは翔吾のどこが気に入ったの?」
「どっ」
「優しいところ、ですね」
「なんっ」
「この子、誰に似たのか口も態度も悪いでしょ?」
「はっ?」
「いえ、そんなことないですよ。すごく優しくしてくれます」
翔吾くんは真っ赤になり挙動不審になっている。お父様から「少しは落ち着け」と言われて、ようやく椅子に座るくらい動揺している。
「あかりちゃんは東京生まれ?」
「はい。生まれも育ちも東京です」
「ご両親は?」
「残念ながら、両親も親戚も亡くなっておりまして」
「え、そうなの?」
翔吾くんは驚いてこちらを見る。彼には話していなかっただろうか。
まぁ、部屋に仏壇も位牌もないから、知らなくても当然か。両親のことを話すような間柄でもなかったし、そもそも両親のことなんて覚えていないのだから話す話題もなかった。
「あら。じゃあ、親戚の方が石川にいたかどうか、わからないわねぇ」
「石川県、ですか?」
「そう。金沢なんだけどね、私の故郷。親戚みんなで昔の写真を見ていたら、健吾が『知り合いに似てる』って言うじゃない。問い詰めたら、翔吾の彼女だって白状したのよ」
なるほど、そういう経緯で私の存在が確定されたわけか。きっと、健吾くんは「白状させられた」のだろう、と簡単に想像できる。このお母様には逆らえないだろう。
「金沢に親戚がいたかどうかはわかりません、ねぇ」
「あら、残念。すごくそっくりなのよ。あ、でも、ユウちゃんも似ている人が会社にいるって言っていたから、失礼だけど、よくある顔なのかもしれないわね。世の中には似た人が三人いるって言うし。ねえ、お父さん」
「僕は写真より実物のあかりさんのほうがかわいいと思うけど」
「親父、鼻の下伸びすぎ」
翔吾くんの空気が少し丸くなった気がしてホッとする。両親と健吾くんに対する怒りが収まったのだろう。いいことだ。

