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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

「私が一番好きだった人は、もう亡くなったの」
一度セックスをしたあと、翔吾くんに腕枕をしてもらいながら、叡心先生のことを思い出す。
困ったように笑う、くしゃくしゃの顔。頬に絵の具がついたままで、スイカを頬張っている顔。キャンバスに向かう真剣な横顔。私を見つめるときの優しい目。
叡心先生を思い出すと、いつも先生の屈託のない笑顔が浮かんでくる。笑うと八の字になる眉毛、目元のしわ、大きな口。大好きだった。
大好きだったのに。
「私が理由で自殺をして……だから、私は彼以外の誰かを愛することが怖かった。今も、怖くて怖くてたまらない」
溢れる涙を、翔吾くんの指が拭ってくれる。そして、優しくキスをしてくれる。
だから、全部話そうと、思うのだ。
「死んだ人を想う女を、好きになってくれる人なんていないと思っていたし、ましてそれを引っくるめて愛してくれる人なんて、見つからないと思ってた」
だって、どうしたって、故人には敵わない。先生への「好き」の気持ちが消えることはない。
そんな残酷な恋を、愛を、誰かに強制したくなかった。
「でも、翔吾くんの本心が知りたいなって思ったとき、そう思うのがなぜなのかって考えたとき……いつか来る別れのことを想像したとき、私、翔吾くんと離れたくないなぁって思ったの」
離れることはできるだろう。でも、きっと、寂しくなる。つらくなる。それは、離れたくない、ということではないのだろうか。
なぜ、離れたくないのか。
それは、私が翔吾くんを好ましく思っている――好きだということなのではないか。
そんな、単純な話。
今まで、セフレにこういう気持ちを抱いたことは、そう多くない。好きだなぁとぼんやり思うことはあったけれど、セフレ以上の関係を求めることはなかった。求められても、逃げるだけだった。
逃げない、という選択肢は、考えたことがなかったのだ。

