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サキュバスちゃんの純情《長編》
第8章 兄弟の提携

翔吾くんが自分の着ていたシャツで後部座席の汗と痕跡を拭いたので、代わりにTシャツを渡す。思わぬプレゼントを前にして、翔吾くんは驚いて、喜んで着てくれた。タグはヒモが巻いてあるタイプだったので、ハサミがなくても大丈夫だった。
「似合う?」
「似合う! なんかね、アウトレット限定って書いてあったよ」
「へぇ。カエル、好きなの?」
「うん、かわいい。私も買っちゃった」
ちょっと大きめのカエルが、ひょこりと頭だけ出している感じで裾にデザインされているTシャツ。青い生地に白いカエルのイラストがかわいいと思ったのだ。
まぁ、若干、かわいすぎたかもしれないけど、部屋着にでもしてもらえたらいいかな。
「あかりも買ったの? おそろい?」
「うん!」
「あとで着てみて」
動き出した車は、静かだ。東京に来てからは電車移動ばかりであまり車には乗っていなかったけど、最近の車はエンジン音がわからないくらいに静かなんだなぁと感心する。
何度か信号を曲がり、大きな通りから外れて少しずつ小さな道へ進んでいく。曲がるたびに、人の姿がなくなっていき、蝉の大合唱だけが聞こえてくる。
そして、翔吾くんが車を停めたのは、小道を行った先の、木々が生い茂る中に見える、白い壁の大きめの建物の前だった。ログハウスやコテージを想像していたから、ちょっとモダンな感じに驚く。
「ここが別荘?」
「そう。狭いけど」
「……めちゃくちゃ広いんだけど」
入ってきた細い道から、きっと桜井家の土地なんだろうなぁと思いながら、車から降りる。
空気が澄んでいる。東京とは違う綺麗な空気。砂利の上を歩いて、玄関にたどり着く。
玄関は木製。外観は白と木を活かした感じの和モダンな造り。広々としたウッドデッキもある。
翔吾くんに中に招き入れられて、「すごい」と言葉がこぼれる。内装は木目調。床も壁も天井も、木。テーブルも椅子も、部屋全体が、木。匂いが気持ちいい。
「二年前にリフォームしたばかりだから、まだ綺麗でしょ」
「キレイ! すごい!」
「あかりの語彙力は増えないなぁ」
給湯システムのボタンを操作して、翔吾くんが手招きをしてくれる。
広すぎるリビングの奥の廊下の先、「ここがあかりの部屋ね」と翔吾くんが荷物を持って入ったのは、大きなベッドがある部屋だ。

