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サキュバスちゃんの純情《長編》
第4章 過日の果実

新宿から箱根湯本まで、さほど遠くはないのだと初めて知った。
冷房の効いた車内から出た瞬間に汗が噴き出すほどの暑さ。昔と比べると冷房の機能は格段に良くなったけど、夏はどんどん暑くなっているような気がする。
「ここで乗り換えるよ」
「登山鉄道!」
「そんなにはしゃがなくても」
湯川先生は苦笑する。
特別席というガラスのパーテーションで区切られた個室みたいな席で、景色を見ながらゆっくりコーヒーを飲んだのは初めてだった。
さすがに朝食後の九時すぎからお弁当は食べられなかったので、次の機会があれば、席でお弁当を食べてみたいと思う。
先生からの北海道土産は、カニではなく、ハンドクリームと麦わら帽子だった。
「ストローハットと言いなさい」と訂正されたけど、カワイイ感じの麦わら帽子に違いはない。しかも折り畳める。さすがに電車内ではかぶることはできないけど、夏の旅行中のアイテムとしては嬉しい。
「箱根の森駅まで行くよ」
「美術館!?」
手を繋いで歩きながら、ホームを移動する。周りの人が向かうほうへ歩くだけなので、楽だ。階段を使うことなく、歩くだけで赤い電車が見えてくる。
三連休の初日ということもあり、ホームには大勢の旅行者がいる。何回か待たないと乗車できないみたいだ。
「あかりが行列苦手じゃなくて良かったよ」
「気は長いほうだから」
それでなくとも、長い時間を過ごしてきた。行列に並ぶ時間なんてあっという間に過ぎるものだ。待つのは苦ではない。
何回か電車を見送ってから、赤い電車に乗り込む。幸いなことに二人とも座ることができた。

