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こじらせてません
第2章 馴致
なぜこの上もなかったかというと、アキラは、ミサがナンバーワンと位置付けるマンガの少年そのままの男性だったからである。

夜の舞台、観念の世界で長らくお世話になってきた少年は、ミサにとって理想の男性と言ってよかった。であるならば、マンガの中で、女主人公が少年と結んだ関係と同じような関係を結びたい。そんな願いが、アキラの申し込みを聞いた瞬間に湧き起こった。

高校生の男の子が、いい歳こいたオトナの女から、そんなことを言われたなら、たじろぐ可能性が高い。

だが、十年間、本質的には恋人でもないのに、恋人だと思い込み、あのハゲを理由にこの大根のアプローチを拒絶し、あげくの果てには不義をはたらかれて婚約破棄に至ったのだ。そして、理想そっくりの美少年が目の前に現れ、黒居ショックから救ってくれ、恋人として扱いたいと言ってくれたのである。だから反駁しようとする矜持をねじ伏せ、ミサは直感へ賭して、我欲を押し通したのだった。

そしてアキラは……申し出を受け入れてくれた。

(もう、ヤバい……)

いろいろ「ヤバいこと」と「ヤバいとこ」はあったのだが、まとめると、確かにその一言だった。

息を吐き出すと、そのあまりの熱さに慄いた。

懐に抱いていたスマホを外す。
画面ではアキラが笑っている。

スマホを握っているのと逆の手は──足の間へ入ってしまっていた。

(……アキラくんが、悪いんだからね)

言いがかりだった。

個室に入って、映像的密室になると、顔を見たい誘惑には抗えず、スマホの画面にアキラを映してしまった。そして笑顔を見た瞬間、胸の中が甘ったるくなった。

昨日の夜を思い出す。

マンガの中で行われていたように、彼に脚を授け、それから、スカートの中へと導いた。

しかしそこからはマンガのようにはいかず、彼の唇と舌が最も柔らかい場所に触れると、あっさりと脳は融け落ちた。

下肢を痙攣させて引き波を迎えたが、彼はスカートの中から出てこなかった。
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