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氷の華~恋は駆け落ちから始まって~
第5章 彷徨(さまよ)う二つの心
ただサヨンの予期せぬ逃亡を恐れたから、町で刺繍を売ることにトンジュが真っ向から反対した―、サヨンはそう思い込んでいた。よもや、その裏にトンジュの彼女を案じる心があるとは考えもしなかったのだ。
「判った、判ったから。もう泣くなよ、なっ」
トンジュが必死に慰める。急にサヨンが泣き出したので、慌てているのだ。トンジュを困らせてはいけない、泣き止まないといけないと思うのに、意思の力に反して涙は止まらなかった。