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月曜日の処方箋
第1章 夕暮れと白衣
放課後の校庭から聞こえてくる部活の掛け声が、今の河崎陽菜(17)にとっては遠い世界の出来事のように響く。
少し前まで、保健室のベッドに横たわっていた。
「陽菜ちゃん、毎月こうやって授業に出られないくらい辛いんでしょ? 一度、ちゃんと産婦人科で診てもらいなさい。お母さんにも連絡しておくから」
保健の先生は親身になってそう言ってくれた。
けれど、その言葉が陽菜には重荷でしかなかった。
『産婦人科』という響き。まだ高校生の自分が、そんな大人の行くような場所に行くなんて耐えられない。
逃げるように保健室を飛び出し、そのまま下校の途についたものの、いよいよ限界がやってきていた。
(……しんどい、息ができない……)
下腹部を締め付けられるような重い痛みと、頭の芯をハンマーで殴られたようなめまい。
毎月やってくる生理不順と激しいPMS(月経前症候群)は、今日という日の最後の一歩まで陽菜の体力を奪い尽くしていた。
どうせ私の体なんて、普通じゃない。まともに生きられない欠陥品なのだと、心のどこかで諦めかけていた。
駅前の通りに出たところでいよいよ視界が暗くなり、これ以上歩くのは無理だと、道の端にしゃがみ込む。
冷たいアスファルトに額を押しつけて小さく丸まる。
その時、目の前の視界に、黒い革靴の足元がスーッと現れた。
「――大丈夫?」
降ってきたのは、驚くほど低く、けれど温かみを含んだ声だった。
はっと顔を上げると、そこに立っていたのは白衣を羽織った一人の男性だった。
どうやら、買い出しの袋を提げて外から戻ってきたところらしい。
歳は三十代半ばくらいだろうか。
整った顔立ちはどこか影を帯びていたが、その瞳には怯えた少女を値踏みするような色は一切なく、ただまっすぐに心配の色が浮かんでいた。
「立てそう?」
男性は持っていた袋をそっと地面に置き、陽菜と同じ目線になるようにその場でゆっくりと膝を折った。
言葉が出ないまま、陽菜は力なく首を横に振った。
「そうか、動かなくていいよ。……冷えたね」
男性は自分のジャケットを脱ぐと、震える陽菜の肩にそっと掛けた。
「ここは風が当たるから。すぐ中に、あったかい場所があるからね」
そう言って優しく背中を支えてくれる。
見上げると、すぐ目の前に掲げられた看板には『加藤産婦人科』と控えめな文字が書かれていた。

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