この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
智恵の輪
第1章 同僚の距離
きっと周りの乗客には、反対車線を走る電車がすれ違う大きな音しか聞こえなかっただろう。彼女の微かな声は、他の乗客に聞こえなかったはずだ。そう思い、和真は素早く周囲を見渡した。
近くには先程と変わらず目を細める智恵の笑顔があった。和真に回した両腕に、さらにギュッと力を込めていた。
大きな音を立てて電車がすれ違う間、智恵は和真の耳元で「私は嫌じゃない…」と呟いていた。それは休職のことを告げた重く張り詰めた声ではなく、力の抜けた掠れそうな声だった。
それからの10分、二人は電車の揺れに合わせてダンスをしているようだった。さらに多くの乗客が押し寄せ、行き場を失った二人はステップを踏み、そのまま寄り添っていた。
***
和真は智恵の案内に従う形で、地下一階のバーに入った。壁際には多くの瓶が並べられ、その前には数席のカウンター席があった。左側にはソファ席が置かれ、店の一番奥には年配男性が二人座っていた。飾り気の少ない、シンプルなお店だった。
カウンターの中にいた女性が振り返った。
「いらっしゃい」
少し低めの、落ち着いた声だった。女性は智恵に笑顔を向け、続いて後ろに立つ和真へ顔を向けた。
白いシャツに黒いベストを重ね、ストライプのネクタイを締めていた。腰から下は黒いパンツで、長い髪は後ろで一つに束ねられていた。
「和真さん、座って…」
智恵は和真の肩に手を添えると、細い通路を抜け、カウンターの中に入っていった。
近くには先程と変わらず目を細める智恵の笑顔があった。和真に回した両腕に、さらにギュッと力を込めていた。
大きな音を立てて電車がすれ違う間、智恵は和真の耳元で「私は嫌じゃない…」と呟いていた。それは休職のことを告げた重く張り詰めた声ではなく、力の抜けた掠れそうな声だった。
それからの10分、二人は電車の揺れに合わせてダンスをしているようだった。さらに多くの乗客が押し寄せ、行き場を失った二人はステップを踏み、そのまま寄り添っていた。
***
和真は智恵の案内に従う形で、地下一階のバーに入った。壁際には多くの瓶が並べられ、その前には数席のカウンター席があった。左側にはソファ席が置かれ、店の一番奥には年配男性が二人座っていた。飾り気の少ない、シンプルなお店だった。
カウンターの中にいた女性が振り返った。
「いらっしゃい」
少し低めの、落ち着いた声だった。女性は智恵に笑顔を向け、続いて後ろに立つ和真へ顔を向けた。
白いシャツに黒いベストを重ね、ストライプのネクタイを締めていた。腰から下は黒いパンツで、長い髪は後ろで一つに束ねられていた。
「和真さん、座って…」
智恵は和真の肩に手を添えると、細い通路を抜け、カウンターの中に入っていった。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


