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愛と犠牲の果て~人妻を堕とす愛人契約~
第109章 生贄のプロローグ ―汚されたルージュ、奈落への署名―
雄一は、澪の涙を浮かべた瞳と、今にも崩れ落ちそうなその細い肩を目の当たりにして、胸が張り裂けるような衝動に駆られた。デスクの下で、自らの両膝を血が滲むほどに強く握りしめる。自分が宇佐美を拒み、真壁に決定打を与えてしまったからこそ、彼女は今これほどまでに苦しんでいるのだ。
「澪……っ」
怒りと、悔しさと、己の醜い嫉妬が招いた無力さへの絶望。それらの感情が濁流となって雄一の胸を支配した。今すぐ彼女の細い手を引いて、このオフィスから、確実に逃げ出してしまいたかった。だが、現実はそれを許さない。そのもどかしさと痛みが、彼の声をひどく歪ませた。
「……ごめん。僕が不甲斐ないばかりに、君にそんな想いをさせて……本当にごめん。18時30分だね……分かった。気をつけて……いや、絶対に無理はしないで。僕は、君の帰りをずっと待っているから。君の夫は僕だけだ。それだけは忘れないで……っ」
雄一は必死に声を抑えながらも、血を吐くような熱い感情を込めて澪に言葉を返した。二人の間で交わされた痛切な視線は、冷酷な現実を前にして、より一層強く結びつこうとする悲壮な決意に満ちていた。
不自然で悲痛なやり取りを交わす二人のもとへ、背後から低く威圧的な声が掛けられた。
「おや、澪くん。ちょうどいいところにいたね」
振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべた鬼頭社長が立っていた。二人の間のただならぬ空気を察していながら、それを楽しむかのような、冷徹な笑みだった。
「澪くん、少し社長応接まで来てくれないか。急ぎで確認したい案件があってね」
「あ……はい、分かりました。すぐ伺います」
澪は急いで涙を拭うと、雄一に、壊れそうなほどに悲しい、そして申し訳なさそうな一瞬の視線を残し、鬼頭の後に続いて社長応接室へと入っていった。
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