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愛と犠牲の果て~人妻を堕とす愛人契約~
第106章 裏切りの重奏
荷物をまとめ終え、部屋のドアの手前で澪が時雨崎を振り返る。
「じゃあ、行きましょうか。……最後に、ね?」
澪はそう言って、別れの挨拶代わりに、時雨崎の唇へ自らそっと口づけを交わした。名残惜しさを伝えるだけの、ほんの軽い触れ合いのつもりだった。
しかし、重ねられた唇の柔らかさと、そこから流れ込んできた甘美なぬくもりが、時雨崎の理性を一瞬で焼き切ってしまった。時雨崎は思わず澪の肩を掴むと、奪い去るように彼女の唇を深く塞いだ。ただの口づけだったはずのものは、瞬く間に、互いの舌を激しく絡め合わせる情熱的なディープキスへと変貌していく。
息が詰まるほどの深い接吻の中で、時雨崎の抑えていた独占欲と寂しさが一気に決壊した。澪の口内を貪り、吸い上げるたびに、彼の胸のうちは「彼女を帰したくない」という剥き出しの情熱で満たされていく。澪も突然の激しい変化に驚きながらも、若々しい舌の愛撫がもたらす甘い痺れに、思わず膝の力が抜けそうになっていた。
ようやく唇が離れたとき、二人の呼吸は完全に乱れていた。
「……っ、澪さん!」
時雨崎は堪らなくなったように澪の細い身体を強く抱きしめ、その耳元で必死に声を絞り出した。
「お願いです、もう少しだけ……もう少しだけ、一緒にいてください……っ」
「ダメよ、律弥くん。私、もう帰らなくちゃ……」
澪は困ったように微笑み、彼の胸を優しく押し返そうとした。でも、情熱的なディープキスで完全に火がついた時雨崎は、さらに強く彼女を抱きすくめ、縋るように懇願を重ねていく。
「だって、今帰宅しても、雄一さんも紬ちゃんも家にいない時間ですよね……? それに、澪さんは今日、お仕事もお休みだって言っていました。……本当に、もう少しだけダメですか……っ?」
若く瑞々しい瞳にまっすぐ見つめられ、熱烈に求められる。彼の自分に対する確かな優しさや、昨夜から重ねてきた心地よい肌の記憶、それにお気に入りの彼への確かな好感も手伝って、澪の胸の内で、頑なだったはずの理性の堤防が音を立てて崩れていく。
(確かに、今帰っても誰もいない……。今日はお休みだし……)
自分を必要としてくれる若者の情熱的な拒絶に、澪はついに抗いきれなくなり、時雨崎の熱い懇願に負けてしまうのだった。
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