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雨夜の灯(あまよのあかり)ー再会から始まる恋
第5章 「掌に、熱を」
環の指先が、そっと澪の手に触れた。
 それは、脈を確かめるような静かな動きだった。

 その瞬間、澪の呼吸が浅くなる。

 心臓が早鐘を打ち始める。
 これが「触れられる」という感覚なのだと、澪は初めて理解する。

 ただの皮膚の接触ではない。
 心が、過去が、いま確かに誰かの掌の中にあるという、恐ろしくも美しい感覚だった。

「……怖い?」

 環の問いに、澪は小さく首を横に振った。
 ほんとうは、少しだけ怖かった。けれど、それ以上に、手を引かれたかった。

 逃げないで、そばにいて。
 その想いが、言葉より先に、澪の手を環の手に重ねさせた。

 ――あたたかい。

 それだけで、涙が滲んだ。

 環がそっと、澪の頬に手を添えた。
 額ではなく、今度はその唇に、ゆっくりと口づけた。

 やわらかく、深く、それでいて、どこまでも静かだった。

 澪の中で、何かが音を立てて崩れ、同時に、新しい輪郭が浮かび上がる。
 長い時間、凍りついていた場所に、熱がじわじわと染みていく。

 それは決して激しいものではなかった。
 けれど、確かに心を抱きしめるような、ぬくもりだった。
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