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天狐あやかし秘譚
第114章 天道是非(てんどうぜひ)
「うれ・・・しかったんだよね。
 私さ、三人兄弟の真ん中で、なんにも・・・
 本当になんにも取り柄がなくて、
 だから、心の何処かで、愛されっこないって思ってた。
 でも、あなたはどんなときでも私を見てくれて、
 どんなときでも私を一番に考えてくれる・・・
 こんな人・・・私の人生に・・・いなかったから」

話し始めたら、涙が止まらなくなった。

昔の私は、もしかしたら、『いつ死んでもいい』くらい思ってたように思う。
でも、今は違う。違うんだ。

「怖いんだよ・・・ダリ・・・
 ダリとの時間が終わっちゃうのが。
 あなたと会えなくなることが・・・とても怖いんだよ」

私の恐怖の正体はこれだった。
自分の命が終わるのはもちろん怖い。
でも、ダリと歩む時間がなくなってしまうこと。ダリとの未来が塗りつぶされてしまうこと。それが一番嫌だったし、怖かったのだ。

「我も・・・主を失うのは・・・怖い」

え・・・?

一瞬、耳を疑った。
私が記憶する限り、ダリが自分の感情を・・・それも恐怖という感情を吐露したことは一度もないからだ。でも、その言葉が嘘でも冗談でもないことは、抱きしめる彼の腕にこもる力が、私に如実に伝えてくれていた。

「う・・・うん」
私はより深く彼の身体に自分の身体を潜り込ませる。ちょうど、口元に彼の腕が来ていた。

「・・・ふふ」
「どうした?」
「ううん・・・変だなって。
 だって、ダリも同じ気持ちだってわかったら、
 こんなときなのに・・・嬉しくなっちゃったから」
「そうか」
「うん・・・そう」
「そう言えば・・・我は主にあまり心の内を話しておらなんだな」

まあ、実はダリの気持ちは話さなくてもわかるんだけど・・・
でも言葉にしてもらえたらやっぱり嬉しい。

「言って」
だから、こんなふうにわがままを言ってみた。
ふっと耳元で小さな笑い声がした。
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