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爛れる月面
第2章 湿りの海
「クミちゃん」

 身を固くしたちょうど、徹が呼びかけてきて、

「……ん?」

 何とか、一音だけで答えてやる。

 男は正面を通り過ぎて後ろに回り込むと、背もたれに手をついて屈んできた。耳を電話に寄せてくるので、紅美子は遠ざかろうと傾いたが、最終的には窓があるから避け切ることができない。

「明日さ……東京、行っていい?」

 背後から、ふっ、と鼻息が聞こえる。その息音すら拾ってしまいそうで、話し口に手のひらを添える。多少、声が密まっても、不思議には思われないだろう。会社に、いるのだから。

「……。だめ」
「どうして?」
「こっちが逆に、どうして、だよ。研究、忙しいって言ってたじゃん」
「大丈夫だよ、終わる」
「てか私さ、たぶん明日か明後日生理になるもん。せっかく来てもガッカリしちゃうよ?」
「そんな気持ちで、行こうって思ってるわけじゃないよっ。……本当に」

 珍しく徹が声を荒げ、すぐに元に戻したから、

「いまどこ?」
「えっ」
「いま、どこにいるの?」
「うん、家……」
「ウソつけ」やっと、少しだけではあったが真実の笑いが漏れ、「職場でしょ。……ほーら、忙しいんじゃん。金曜の夜に残業してんだから。私もだけど」
「いや……、……うん」
「徹がウソつくとすぐわかる。こんなんじゃ浮気できないね」

 何の言葉も売られていないのだから、買う必要はなかった。何故、言ったのだろう。自分ではわからない。もしかしたら徹のせいかもしれない。こめかみを、頭蓋骨を圧し潰すような痛みが襲う。

「だってさ、会いたいんだよ、クミちゃんに。すごく」
 息を止め、痛みが引いていくのをひたすら待っていると、徹は続けた。「クミちゃんが心配で仕方がないんだ。泣いてたんだもん、クミちゃん。泣くとこ見たことないのに」
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