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第20章 もつれるストッキング4　　　　　律子とゆかり

　124　視線(16)

　わたしには蒼井美冴さんという頼もしい存在がいるのだ…
　そう思った瞬間、偶然に触れてきた美冴さんの脚に自分の脚で押し返す。

　それだけで…
　このお互いの脚の触れ合いだけで思いは伝わるはず、いや、二人の思いが通じるはずなのだ。


　すると…
「あ、うん、青山くんの希望と、その、新潟支社長へのペナルティの意味合いをも含めて、早急に…
　できれば来週早々には強行異動させようと考えてる」
　と、この松下秘書の動揺を察したかの様に、急に大原常務が越前屋さんの問い掛けにそう応えてきたのだ…
　それは口ごもった彼女に代わって言ってきたみたいである。

　どうやら彼は…
　越前屋さんにだけは比較的冷静に対応できるみたい。

　それはそうだろう…
　この三人の中で、越前屋さんが一番当たり障りのない存在であるのだから。

　それに美冴さんもこの松下秘書の魅惑さに気付き、その鋭い勘により秘かに疑惑の視線で彼を責める視線で見ていたであろうから…
　だから彼にしてみたら、越前屋さんにしか視線を逃がす相手がいなかったのだろう。
　

「うわぁ、来週早々ですかぁ？」
　その越前屋さんがそう応える。

「あ、うん、そう…
　とりあえずはもう既に本社側の山崎専務とこちらの林田社長には通知、了承は承諾済みだから…なぁ？」
　と、その時、彼が横を向いて松下秘書の同意を求めた…
　いや、それは急に口ごもってしまった松下秘書へのフォローみたいにもうかがえる。

「あ、は、はい…
　そ、そうです、そうでした、もう今日の午前中には根回しは完了しましたので…」
　すると、そんな彼のフォローで少し落ち着いた感じになった松下秘書が、慌ててそう答えてきたのだ。

　まるでその様子、会話、いや、この対峙の場は…

　大原浩一常務…
　わたし佐々木ゆかり…
　この松下律子という謎の存在感たっぷりの秘書…
　そしてわたしの友達であり、彼との秘密の交際関係を知っている唯一の味方である蒼井美冴さん…
　その四人により、この場の空気感が激しく揺れ、張り詰め、せめぎ合っていた。

　ただ、そんな空気感を一切感知していない、このいつも明るく前向きな越前屋朋美さんだけが…

　この四人の心の共通の緩衝材として存在し、この対峙の場の空気感をかろうじてギリギリな均衡を保たせてくれているようである…