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シャイニーストッキング
第20章 もつれるストッキング4     律子とゆかり
 117 視線(9)

「はい…だからこその、そして青山さんとの兼ね合いも含めてちょうどよいのかなぁ…と」
 なんとなく得意気な表情を浮かべ、松下秘書がそう言った。

 その得意気な表情…
 それはまるで、その人事異動が大原常務の意見ではなくて、自分の判断であるというわたしに対してのアピールみたいで、そしてその表情は、今、心の中に渦巻いている不惑の想いの疑惑を更に決定付ける表情といえ…
 先のシャネルの残り香の疑惑と共に、わたしの心を絶望感に陥れてくる。

 不惑の疑惑…
 それは、彼、大原浩一常務とこの松下律子秘書の関係が、ただ単なる世間一般によくある様なゲスで下卑な『常務と秘書』的な軽い関係ではないという疑惑。
 それに今日の、この彼の様子、目、視線、上ずっている声音から…
 それがモロにこの疑惑をわたしに伝えてくるのだ。

 そしてやけに挑戦的な、時にはこうして得意気に話してくるこの松下秘書の表情と視線と口調から…
 その疑惑を更に強く感じてくる。
 
 この二人の関係は間違いない…
 そんな不惑な想いに、わたしは一気に絶望感に陥ってしまう。

 それは決して普通の浮気レベルではないような…
 いつもの、単なるストッキングフェチ嗜好によるスケベ心からの浮気の関係ではないような…
 わたしの女の中にある、オンナの勘がそうザワザワと囁いてくるのだ。

 確かにあの常務就任の次の日から、彼の心の奥深くの中にあるナニかの想いが微妙に、いや、確実に彼の中のナニかが変わった、いいや、変化を感じた…
 そう、彼の中に潜んでいた『野心』みたいなナニかが…
 そして感じたその変化が、彼女、この松下秘書との関係のせいなのだろうか?
 時期はピタリと一致する。

 それが先のシャネルの残り香の疑惑と相まり、そんな不惑な疑惑、疑問、そして彼女の視線から感じてしまうそれを肯定してくる想い、つまりはわたしにとっての彼との関係の絶望感が…
 ぐるぐると渦巻き、心を激しく揺らがせてきていた。

 そして、そんな不惑で絶望的な想いの心の動揺を、目の揺らぎを…
 彼女の視線がわたしを捉えて離さないでいる。

 それはまるで観察するかの様な視線…

 何の観察?…

 そしてその視線の意味は、この松下秘書の、まるで勝ち誇ったかの様な視線、目からわかった…

 いや、伝わってきたのだ…




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