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月光の誘惑《番外編》
第3章 月に臨み、月を望む。

午前の診察が終わり、午後三時過ぎになってから入院患者の回診をしていたときだ。
とある患者のお見舞いに来ていた集団の中に、彼女の姿を見つけたのは。
「あぁ、先生! うるさくしてすみませんねぇ! 会社の部下たちがお見舞いに来てくれて!」
あんたの声が一番大きい、と突っ込むことすら忘れていた。
窓際に立った彼女が微笑んでいるのを見て、恥ずかしながら――俺は勃起した。奇跡だと思った。恋い焦がれた女が、目の前にいたのだから。
白衣でさっと前を隠し、患者の傷口を診て、触診を終える。その間も、俺の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。
「じゃあ、課長の元気な顔を見たので、俺ら帰りますね」
「おぉ! ありがとな! 酒が飲めるようになったら、みんなで飲むぞ!」
「課長の奢りで?」
「ありがとうございます!」
そんな声をカーテン越しに聞きながら、「待ってくれ」と願う。
行かないでくれ。
あなたと話がしたい。
待ってくれ。
今すぐあなたと――。
けれど、点滴の確認などを終えたときにはもう、患者の部下たちは病室にはいなかった。奇跡は起こっても、それを手にすることは難しい、ということだ。
「いい部下をお持ちなんですね。会社、どこでしたっけ?」
「サキタっていう、上場はしているけど知名度の低い会社ですよ!」
サキタ。その名前だけ、頭に刻み込む。
「お大事にしてください」
「先生、次は斎藤さんです」
看護師の言葉に、フラフラと病室を出る。
サキタという会社を調べて、張り込んで、偶然を装って彼女に近づくことは可能だろうか。そこまでしたら、ストーカーだろうか。いや、でも、これはチャンスだ。できれば、彼女と――。

