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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice

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――本当に、見逃されたのか?
そう言われても、実際……見逃されたのだ。
黒服に黙っていろと身振りで言われて、あたしは命惜しさに天使が拉致される様を黙って見ていたのだから。
見逃されていないとしたら、あたしはその場で殺されるか、天使とともに拉致られたとしか考えられない。
だけどあたしは生きて、こちら側の世界にいるじゃないか。
――俺、前にお前に聞いたよな。その公園から、自分で帰ったのかって。
帰った時の記憶はない。
だけど、そのことばかり考えてトボトボと家に帰っていたのなら、帰り道の記憶などなくて当然だと思う。
――当然、か。俺には、だから記憶がなくても仕方がねぇのだと、お前が思い込もうとしているという風にもとれるな。
須王は、あたしが今まで思っていなかった事態を推し量っている。
――黒服は命令に忠実だ。組織の中では兵隊蟻のようなもの。その天使が組織の中の者であるのなら、外部との接触をあいつらに見られて、無事なはずねぇんだけど。
見逃されていなかったら――。
今生きているあたしは、天使と共に拉致された挙げ句に、許されてこちら側の世界に戻されたとでも言うのか。
あたしは、人づてではなく、直接天使の最期を見たとでも?
だから、天使が死んでいることに違和感を覚えなかったというの?
なにかがちりと残像の断片を見せる。
まるで忘れた夢を思い出したいかのように。
夢――。
あたしはなにか夢を見ていなかった?
……だけどそれを思い出すことは出来なくて。

