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令嬢は元暗殺者に恋をする
第83章 王女アリシア
 厳しかった表情を解き、アリシアは微笑んだ。

「ハル、私はもうハルとは会えないと思っていた。だから、正直、ハルがこの国にとどまってくれてほっとしている。私はひとりでも頼れる仲間が欲しい。できることならハルを失いたくない」

「最初は……」

 ハルは窓の外、遠くの空へと視線をさまよわせた。

「最初はこのアルガリタを出て、サラとともにどこか別の地へ逃げようと思った。だけど、結局どこへ逃げても隠れても無駄だから。レザンの暗殺者はどこまでも執拗に追ってくる。だったら、この国に潜もうが他国へ逃れようが同じことだと思った。もう覚悟は決めた」

 覚悟は決めた。

 そう思いながらも何度迷っただろうか。
 だが、もう決して迷ったりはしない。
 今度こそ、本当に。

「それに……」

 ふと、ハルの口許に緩やかな笑みが浮かんだ。

「この国を離れてしまったら、サラが寂しがる」

 そうか、とアリシアも穏やかな微笑みを浮かべた。

「だが、サラはトランティア家の唯一の跡継ぎだ。ハルはそれをわかっているのか?」

 アリシアの問いかけにハルはああ、と声を落とす。

「俺に万が一のことがあった時は、サラを屋敷に帰すつもりだ」

 俺がこんなことを考えているとサラが知ったら怒りだしそうだね。

「その時に立派な家柄のご令嬢が何も知らない、何もできないではサラも困るだろうから、これからは俺の知っていることはすべてサラに教えていくつもりだ」

 アリシアはくすりと笑った。
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