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さくらホテル2012号室
第19章 さくらホテルのさくら

ライティングデスクの椅子に腰掛け、桐の小箱の蓋に両手を添えて、そろそろとそれを開ける。
木目同士がこすれあう、上品な音がした。
おそらく宝石の空き箱を使ったのだろう。
指輪を置くように、白い絹で小山がしつらえられている。
その小山のくぼみに、小指の爪先ほどの。
『過去が壊れた音ですよ』
先生の声がまた、聞こえた。
桜貝の貝殻。
薄く、はかなく、淡い。
硬く結晶した桜の花びらのように。
わたしはそれを丁寧に指先でつまみ、手のひらの上にのせる。
息を吹きかけるとどこかに飛んで行ってしまいそうなほど、はかない。わたしは息を詰めて、それを見る。
先生は物言わず、ここに。
この花びらに。
この部屋に。
わたしの中に。
ここに。

