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さくらホテル2012号室
第17章 傷心旅行

確かに。
季節は11月。
海に入れるわけでもなければ、避暑に似つかわしいわけでもない。自慢のさくらも、紅葉の時期も季節はずれだ。
でも。
「でも、素敵なんですよ。人気(ひとけ)ない季節のリゾートホテルは。静かで、ゆっくりと時間が流れて」
「お客さん、都会の人だね」
揶揄するでもなく、運転手さんはそう言った。
「そう?」
「都会の大人の女だら。所帯じみたここいらのオバちゃんはそういうこと考えないし、キャッキャ騒ぐだけのやかましい小娘は、ゆっくり過ごすなんてできねゃからね」
わたしも所帯じみた都会のオバちゃんなんだけどな、と心の中で舌を出した。
「京都みたいだよね。この町も、ちったぁ大人になったずらかね」
運転手さんは妙な感慨を口にした。
これがもし部屋に入っても泣きぬれてばかりなら、年増女のみっともない傷心旅行だ。
先生はそういうのを望まないだろうな、と近づいてくるいつものホテルのエントランスを見ながら、わたしは思った。

