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第27章 第十一話　【螢ヶ原】　　其の参　

「江戸の近在の小さな村だったの」
　お彩は、伊勢次を見つめながら静かに言った。
　いつしか、あれほど波立っていた心が少し落ち着きを取り戻していた。大好きだった父や母、母に繋がる想い出のせいかもしれない。
　母に連れられて誰のものとも判らぬ墓に詣でた日、お彩母子はその鄙びた村の一軒の農家に宿を取った。眠りに落ちたふりを装い、囲炉裏端で昔語りに熱中する大人たちの話に耳を傾けた。その話によれば、母は若き日、この村にしばらくの間、滞在したようであった。
　お彩の瞼に、あの鄙びた農村の光景が懐かしく蘇る。たった一日いただけなのに、まるで、ふるさとを恋うるような懐かしさが急に込み上げ、その狂おしいまでの想いにお彩自身さえ戸惑った。