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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第27章 第十一話 【螢ヶ原】 其の参

だが、この男の優しさは、ほんの見せかけにすぎない。市兵衛という男は、奥深くに、虚ろな闇を抱えている。お彩はその闇が無性に怖いのだ。市兵衛の傍にいれば、いつかお彩までその大きな闇に呑み込まれてしまいそうで。
その闇から彼を救うすべがあるというのなら、お彩はまだしも手だてがあったろう。しかし、市兵衛の闇は人の力では、どうすることもできない。彼本人でさえ意思の力で、克服することはできないものだ。―少なくとも、そのときの彼女は本気でそう思い込んでいた。まさか自分自身に、市兵衛の中に巣喰う途方もない闇を埋める力があるとは考えもしなかった。
その闇から彼を救うすべがあるというのなら、お彩はまだしも手だてがあったろう。しかし、市兵衛の闇は人の力では、どうすることもできない。彼本人でさえ意思の力で、克服することはできないものだ。―少なくとも、そのときの彼女は本気でそう思い込んでいた。まさか自分自身に、市兵衛の中に巣喰う途方もない闇を埋める力があるとは考えもしなかった。

