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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第25章 第十一話 【螢ヶ原】 其の壱

お彩は素直に大人しく、伊勢次の腕の中にいる。いや、というよりは今は動転していて、男の腕の中にいるという認識すらないのだろう。伊勢次は泣きじゃくるお彩の背中をまるで幼子をあやすかのように優しく撫でた。
そして、お彩にとって、この伊勢次の言葉は、かつての父の台詞を思い起こさせた。
―たとえ、この世の誰もがお前の敵になったとしても、父ちゃんだけはお前の味方だ。父ちゃんがこの世に生きている限り、お前の帰る場所はここにあるんだってことをくれぐれも忘れるなよ。
自分は何という果報者なのだろう。京屋市兵衛との結婚に反対する伊勢次を振り切り、ひとたびは背を向けた自分に、伊勢次は今でも変わらず接してくれる。伊勢次という男(ひと)の優しさが、人柄が今こそ本当に判ったような気がする。
そして、お彩にとって、この伊勢次の言葉は、かつての父の台詞を思い起こさせた。
―たとえ、この世の誰もがお前の敵になったとしても、父ちゃんだけはお前の味方だ。父ちゃんがこの世に生きている限り、お前の帰る場所はここにあるんだってことをくれぐれも忘れるなよ。
自分は何という果報者なのだろう。京屋市兵衛との結婚に反対する伊勢次を振り切り、ひとたびは背を向けた自分に、伊勢次は今でも変わらず接してくれる。伊勢次という男(ひと)の優しさが、人柄が今こそ本当に判ったような気がする。

