この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第25章 第十一話 【螢ヶ原】 其の壱

今、眼前に見えるのは自分の故郷(ふるさと)ともいえる甚平店ではないが、お彩は無性に懐かしさを感じていた。粗末な長屋は、お彩が片時も忘れることのない、あの懐かしい場所を彷彿とさせ、二親に慈しまれ愛された幸せな日々を喚起させる。もう二度と戻ることのできない懐かしい温もりへと。
お彩の眼に大粒の涙が溢れた。今、甚平店にお彩の帰るべき家はない。父が亡くなってしばらくは、そのままにしておいたのだけれど、四十九日の法要を終えてからというもの、手放してしまったからだ。今、お彩がかつて父母と暮らしていたあの長屋には誰か別の家族が住んでいるはずだ。
五年前に母が亡くなり、また、父までがいなくなった今、お彩の帰るべき場所はもうどこにも存在しないのだ。そのことを改めて思い知らされた気がする。
お彩の眼に大粒の涙が溢れた。今、甚平店にお彩の帰るべき家はない。父が亡くなってしばらくは、そのままにしておいたのだけれど、四十九日の法要を終えてからというもの、手放してしまったからだ。今、お彩がかつて父母と暮らしていたあの長屋には誰か別の家族が住んでいるはずだ。
五年前に母が亡くなり、また、父までがいなくなった今、お彩の帰るべき場所はもうどこにも存在しないのだ。そのことを改めて思い知らされた気がする。

