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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第23章 第十話 【宵の花】 其の壱

このことは、見世の女将とやり手しか知らないが、市兵衛は何度若菜太夫を指名しても、指一本触れたことがない。
初めの中は、市兵衛ほどの男がまさか男としての機能を失っているのではないかと思ったけれど、どうやら、そうでもなさそうだ。現に、市兵衛は今年早々、一膳飯屋の仲居をしていたという女を京屋に女房として入れたという。その女と市兵衛はもう数年も前から続いていたというから、尚更愕きだ。京屋の奉公人の誰一人として市兵衛の女のことを知る者はなかった。
だから、市兵衛がその女を女房にと言い出した時、古参の大番頭を初め、京屋に連なる親類たちは皆が異を唱えた。それを市兵衛が押し切った形で女を京屋に入れたのだ。何しろ、婿養子とはいえ既に市兵衛の先の女房であった先代の娘は六年も前に亡くなっている。
初めの中は、市兵衛ほどの男がまさか男としての機能を失っているのではないかと思ったけれど、どうやら、そうでもなさそうだ。現に、市兵衛は今年早々、一膳飯屋の仲居をしていたという女を京屋に女房として入れたという。その女と市兵衛はもう数年も前から続いていたというから、尚更愕きだ。京屋の奉公人の誰一人として市兵衛の女のことを知る者はなかった。
だから、市兵衛がその女を女房にと言い出した時、古参の大番頭を初め、京屋に連なる親類たちは皆が異を唱えた。それを市兵衛が押し切った形で女を京屋に入れたのだ。何しろ、婿養子とはいえ既に市兵衛の先の女房であった先代の娘は六年も前に亡くなっている。

