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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話 【椿の宿】 其の弐

「さようなら」
それが、最後の言葉になった。
「帰って下さい」
お彩はそう言うなり、背を向けた。
「お前もまた、私を裏切るのか?」
市兵衛の呟きが一瞬聞こえたような気がしたが、あまりにも低声(こごえ)だったせいで、しかとは聞き取れなかった。
仮にお彩がこの短い呟きを耳にしていたとしても、その「お前」というのがそも誰を指すのかは判らなかったであろうし、もしかしたら、若き日の市兵衛の求婚をついに受け容れなかった母お絹のことだと思ったかもしれない。
だが―、市兵衛の言葉の中の「お前」というのは、お絹ではなく、全く別の女性を指していたのである。
それが、最後の言葉になった。
「帰って下さい」
お彩はそう言うなり、背を向けた。
「お前もまた、私を裏切るのか?」
市兵衛の呟きが一瞬聞こえたような気がしたが、あまりにも低声(こごえ)だったせいで、しかとは聞き取れなかった。
仮にお彩がこの短い呟きを耳にしていたとしても、その「お前」というのがそも誰を指すのかは判らなかったであろうし、もしかしたら、若き日の市兵衛の求婚をついに受け容れなかった母お絹のことだと思ったかもしれない。
だが―、市兵衛の言葉の中の「お前」というのは、お絹ではなく、全く別の女性を指していたのである。

